『日本に住む外国人児童の教育権を侵害してはダメですよ、要請文』
内閣総理大臣 安倍晋三
様
文部科学大臣 柴山昌彦
様
要請文
日本社会の少子高齢化の傾向がますます強まる中、「不足する人材を確保」することを 目的に、昨年末、改定出入国管理法が国会を通過しました。しかし、法務省によれば、 2017年度失踪した技能実習生が7,000名を超えており、「技能実習」に名を借りた過酷な
労働の強要の実態が明らかになっています。これまでの技能実習制度の根本矛盾の解消を 図らないままなされたこの度の入管法改定においては、これからさらに導入される外国人
労働者を、日本社会に定住する移民ではなく、産業の人材不足を一時的にだけ埋める「労 働力」としてのみ眼差すばかりで、これからの日本社会を持続可能な社会として共に生きて支える、人権を有する一人の「人間」として受け入れる視点の欠如が最も大きな問題として指摘されています。
そのようななか、文部科学省が、「不就学学齢児童生徒調査」を今年も実施することが
報じられました。文部科学省の2018年の調査によれば、一年以上所在のわからない児童 生徒は63人とされていますが、NHKの調査によれば、日本に住む外国人児童生徒約12万人のうち日本の学校にも外国人学校にも在籍していない子どもの数は8,400人とされます (NHK News Web 2019年4月9日)。しかし、文部科学省は、憲法26条を根拠として、義務教育の対象は「国民」であるとの見解のもと、同調査の調査票に「外国人は、対象から除外する」という但し書きをそえ、これまでの調査と同様に調査対象から外国人を排除しようとしています。しかし、2011年4月1日に閣議決定された「人権教育・啓発に関する基本計画」第4 章2(7)には、「我が国に在留する外国人は年々急増している。日本国憲法は、権利の性質上、日本国民のみを対象としていると解されるものを除き、我が国に在留する外国人についても、等しく基本的人権の享有を保障しているところである」と明記されています。また、教育機会確保法(2016年12月)第3条4号では、「義務教育の段階における普通教育 に相当する教育を十分に受けていない者の意思を十分に尊重しつつ、その年齢又は国籍その他の置かれている事情にかかわりなく、その能力に応じた教育を受ける機会が確保されるようにする」と定められています。
日本がすでに批准している「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」13条 には、「この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める」と記されています。この他「こどもの権利条約」や「人種差別撤廃条約」などにも照らすなら、同じ地域社会に住み学習権を有する存在として外国人児童生徒を位置づけることなく調査対象から排除するということは、明らかにそれら国際条約の精神に背反する行政と言えます。それは、外国人児童生徒の人権としての学習権を疎外することにつながるばかりでなく、共に学ぶ「日本人」児童生徒が他者と出会う豊かな経験を排除することにもつながると考え
ます。
文部科学省がこれまでも「外国人児童生徒等教育の現状と課題」の調査報告をしていることは聞き及んでいますが、そこでは外国人児童生徒の深刻な不就学問題、日本人生徒と
比較しても格段と低い高校進学率・大学進学率の問題は全く扱われていません。そこには、同じ不就学問題においても、「日本国民」と「外国人」との間に歴然とした差別が置
かれているとしか考えられず、日本人も外国人も共に生き、共に学ぶという「共生」理念の欠如した現実が露呈していると考えられます。そのような教育行政の差別意識が、社会や学校においてもさらに人種差別を生み出す要因になっていくと言えるのです。
もはや「国民」だけで成り立たない社会の現状を抱えている今日、わたしたちは、住民
として地域に住まう人間の「人権」を擁護し、共に生きる社会を具体的につくりだしてい かなければなりません。
わたしたちは、ヘイトスピーチに代表されるような差別的な言動が、「選挙活動」の名を借りて垂れ流される状況についても強い懸念を感じています。文部科学省の今回の方針は、そのような差別を当然のこととして認め助長することにつながるものとして、断固、容認するわけにはいきません。
わたしたちは、外国人住民と共に生きる社会を目指すものとして、文部科学省の「不就学学齢児童生徒調査」の対象から外国人児童生徒を排除することに抗議し、教育機関にお
いて日本人児童生徒と共に学ぶ存在として外国人児童生徒をみなす認識に基づいて、文部科学省が不就学児童生徒の調査を実施することを強く要望します。
2019年4月18日
マイノリティ宣教センター
日本キリスト教協議会
外国人住民基本法の制定を求める全国キリスト教連絡協議会
外国人住民基本法の制定を求める神奈川キリスト者連絡会
外国人住民との共生を実現する九州・山口キリスト者連絡協議会
平和をつくり出す宗教者ネット
基地のない沖縄をめざす宗教者の集い
日本山妙法寺
日本基督教団 総会議長 石橋秀雄
日本キリスト教会 人権委員会
日本カトリック難民移住移動者委員会
日本カトリック正義と平和協議会
カトリック東京教区 正義と平和委員会
イエズス会社会司牧センター
日本聖公会 正義と平和委員会
日本聖公会 人権問題担当者
日本聖公会 日韓協働委員会
日本聖公会 青年委員会
日本聖公会 管区事務所 総主事 矢萩新一
日本福音ルーテル教会 社会委員会
日本YWCA
在日大韓基督教会 社会委員会
在日大韓基督教会 関東地方会 社会部
在日大韓基督教会 西南地方会 社会部
西南韓国基督教会館 (西南KCC)
北九州共生文化講座「トラジ学園」
文化センター・アリランを支援する会
富坂キリスト教センター 運営委員長 秋山眞兄・総主事 岡田 仁
平和を実現するキリスト者ネット 事務局代表 平良愛香
人種差別撤廃NGOネットワーク (ERDネット)
( 2019年4月18日現在)